消去法の人生でも、いいと思う。新卒ライターとして活動されている絶対に終電を逃さない女さんにインタビュー
File007:絶対に終電を逃さない女さん(@YPFiGtH)
「好きなことで生きていこう!」とポジティブにフリーランスやノマドを推奨する空気があります。しかし、新卒フリーライターをされている絶対に終電を逃さない女さんは、自身のことを「好きなことで生きていきたいからフリーライターをやってるとかじゃなくて、消去法の人生なんです」と語っています。
本サイトをご覧になっているという縁もあり、今回インタビューさせていただきました。なぜ新卒でフリーランスになったのか、新卒で就職できないことをどう思うか、どのように「絶対に終電を逃さない女」になったのか、お聞きしました。
——以前このサイトを引用してくださったのがご縁で、このインタビューになりましたが、サイトの感想をお聞きしてもよろしいでしょうか。
絶対に終電を逃さない女さん(以下、終女):
「意識が低い就活サイト」をうたっていますが、サイトに載っている人みんな、ちゃんとしていると思うんですよね。大学3年生からインターンに行ったり、OB訪問したり……ちゃんと準備して、活動しているのは、私からすると十分意識が高いことだと思います。
——「早大生の就活や受験の話を聞くと、…(中略)…カルチャーショックがある」という感想が気になったのですが、詳しくお聞きしてもよろしいですか?
早大生の就活や受験の話を聞くと、大卒の就活や大学受験の知識がある親が進路に言及してきたり、親のコネでOB訪問したりといったエピソードが割と多くて、やっぱり親がそういう階層なんだ……というカルチャーショックがある
— 絶対に終電を逃さない女 (@YPFiGtH) February 21, 2019
終女:
サイトを見ていて、カルチャーショックを受けました。親からOB訪問先を紹介されたエピソードや、大学進学する際に「文化構想学部って夜間でしょ?」と言われたエピソードなどがあったじゃないですか。
うちの親は何も知らないんですよ。口出ししたとしても「私立って学費高いんでしょ?」「早稲田ってすごいんでしょ?」くらいです。就活のことも知らないから、何も言われなかったくらいです。
——確かに、インタビューをしてみて、早稲田生の教育水準の高さや育ちの良さを感じました。普通の意識低い学生だと思っていた人でも「え、あなた、社長の子供だったの?」みたいなことも。
終女:
その点、私は地方出身で、OB訪問もしていないので、心配いりませんね。
就活サイトに登録して不眠症に
——終女さんは、就職活動をされたんですか?
終女:
大学3年生の冬までは、就活しようとしていて、マイナビとリクナビの登録しました。それっきりです。
——その後はどうなったのでしょうか。
終女:
マイナビやリクナビに登録すると、メールが来るじゃないですか。最初は大丈夫だったんですが、次第に通知が来るたびに動悸がするようになりました。3年の冬の時点で、不眠症になりました。
——就活についての不安から、不眠症になったんでしょうか。
終女:
これは推測になっちゃうんですが、日常生活の積み重ねだったんだと思います。自分はストレスを感じないんだって勘違いしていたんですが、実際は自覚できていないだけで、ストレス発散もできませんでした。その時期は卒論と就活が始まる時期のプレッシャーがあったから、不眠症になったんでしょうかね。
——日常生活にストレスが蓄積していたんですね。
終女:
精神科に行ってカウンセリングを受けて、卒論との兼ね合いを考えて一般枠の就活を辞めることになりました。障害者枠の就活を始めようとしたら、それまでの手続きが複雑で時間がかかったんです。手帳を取得したり、支援センターに登録したり、そうこうしているうちに進路が決まらないまま卒業してしまいました。
卒業してからは、ハローワークに行ったりもしましたが、障害者雇用でも「定時出社」「最低でも8時間」みたいな条件があって、不眠症で生活リズムが不安定な自分では受けさせてもくれなかったんですよ。
仕事という場において私が求められることって、これくらいしかないと思うんですよね
——大学時代も、「バイト6つ中4つクビになった」とお聞きしましたが。
終女:
はい。ほかの2つは数日でやめました。
クビになったのは日雇い工場、ライター、覆面捜査、カードゲームの仕分けで、数日で辞めたのは飲食店と採点です。日雇い派遣は毎日集合場所が違うから現場にたどり着けないんですよね。道に迷うし、まず地図が読めないし。単純作業は疲れるし、それに、お腹が痛くなって当日欠勤ということもありました。
派遣会社のサイト上でシフト申請をするシステムだったんですが、ある日からアカウントを凍結されました。つまりクビですよね。
唯一長続きしたバイトが、ライターのバイトだったんです。それも最終的にはクビになったんですけど、なんとかやっていけたんです。ゆるい会社だったので、明らかに他の人よりも仕事が遅いのに何も言われないし、遅刻しても怒られない。だから、就職するときも、webメディアを作っている企業を受けようとしていましたね。もちろん、雰囲気重視で。
——就活ができないと気づいてから、フリーランスのライターに転向した勇気がすごいと思います。
終女:
そんなことないです。フリーランスに向いていないんですよ。固定給がないと不安になるし。安定したお金がないと不安。不安に支配される生活は嫌ですもん。
——「園子の部屋」*1のインタビューでは、「会社員として生きていく方が、幸せなのかな」とおっしゃっていましたね。
終女:
でも最近、不眠症になって2年、過眠もあって、睡眠障害が治らなくて、一時的に戻っても治らなくて、睡眠障害について悩んだり改善しようとすることに疲れて正社員を目指さなければこんなに悩まなくていいし、やめようかな、って思いはじめました……。
——ライター一本に絞ると決意されたんですか。
終女:
バイトが4つもクビになり、障害者雇用でも就職できなかった私が、ライターだけは何もしなくても向こうから仕事が来ている。そっちを大切にしようかなって思い始めたんです。
最近は、大きいメディアのお仕事が来るようになって……。GINZAのお仕事は、もともと好きな企画をされている編集さんからお声がけをいただきました。
仕事という場において私が求められることって、これくらいしかないと思うんですよね。
——「終女」の活動は、これを見越して始めたんでしょうか。
終女:
最初はそんなつもりもなく、サークルの内のノリではじめました。自己顕示欲が強いのでツイッターと相性が良かったみたいで、フォロワーもだんだん増えてきたんです。書いた実績をまとめてtwitterとかnoteに乗せていたら、自然に依頼が来るようになりました。去年の夏から今まで、ずっと何かしらの依頼が継続してくるんですよね。
——ライター業は性にあっていた、と。
終女:
ライターも向いていないんですよ。どの仕事にも通じる根本的なことができないんです。「何をしても遅い」ので働くこと自体が向いていない、フリーランスにも向いていない、会社員にも向いていない、何にも向いていないことが前提でその中でマシなやつを選べば、ライターだったんですね。消去法の人生ですよ。
(余談)聞き手Mの進路相談
——本日はありがとうございました。
終女:
Mさん(聞き手)は、今後何をされるんですか?
ーー(聞き手M)えっ。私は一応、春から就職します。
終女:
発達障害があることは就職先に言ってますか?
ーー(M)ここにきて逆質問が……。言ってません。でも、入社してから無能がバレて「話が違う!」って怒られないか心配です。時々、夜にナーバスになって内定辞退しようかどうか悩むんですよね。
終女:
とりあえず働いてみたらいいと思いますよ。働いてみたら実は合っていたなんてパターンもありますし。ダメなら退職して、失業保険など受けられる社会保障制度の申請をしてくださいね。
ーー(M)わかりました。情報にアクセスして申請するのが本当に無理で……。
終女:
ああいうのって、必要な人ほど情報にアクセスして申請するのが困難だったりして、不親切ですよね。でも、申請すれば受けられる支援の制度はあるので。
ーー(M)せっかく就活も乗り切ったので、とりあえず働いてみます。
終女:
私自身とりあえず新卒一般枠で就職しなかった後悔があります。それに、この国って新卒無職のロールモデルがなくて、先が見えなくなってしまうんですよ。だから、ひとまず社会に出て試してみるのはいいかもしれませんね。
ーー(M)ありがとうございます(涙)……あの、後輩が就活のために合同説明会に行ったら涙が止まらなくなって動けなくなるというんですが、私はどうしたらサポートすればいいでしょうか。
終女:
本当に嫌で重度のうつ病になるとか、自殺するくらいならやめたほうがいいと思います。
ーー(M)実際、終女さんが合同説明会とかに行かれていたらどうなっていたんでしょうね。
終女:
私は就活というのが本当に気持ち悪くて。嘘をつくのも、競争も苦手。ヒールも苦手。同じ格好をした集団も苦手。全てが無理だったんです。
私自身、就活してたら死んでたかもしれないです。就活を辞めたときに、自律神経がやばくなっていたなと感じました。通知が来ると動悸が止まらないとか、全身に力が入って眠れない、歩けない、腹痛、そわそわして家の中を歩き回るとか、涙が出る。このまま続けたら本当にダメになると思ったんです。
ーー(M)新卒の一般枠で就活しなかったことは後悔しているとおっしゃっていましたが。
終女:今だから思うだけでしょうけど、「どこも受からなくてもいいや」みたいな気持ちで数社受ける程度は人生経験としてやればよかったかな。でも、それは結果論で、やらなくてよかったのかもしれませんね。今、こうして生きていますし。
▽今回の話し手
絶対に終電を逃さない女……1995年生まれ、都内一人暮らし。ひょんなことから新卒でフリーライターになってしまう。現在、「GINZA」のウェブサイトにて『シティガール未満』連載中。