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就活辞めて美術専門学校に。イイ子のレールからの脱線計画

 

文化構想学部5年・表象メディア論系(19卒)

女性 進路未定

file02:ひなこさん

 

 

2017年1月、当時大学3年生のひなこさんは周りと同じように18卒として普通の就活をはじめましたが「思考停止して就活をしている自分」に疑問が拭えず、鬱々と寝込む毎日を送ることに。ただ、そこからの突破劇がすごかったです。実は就活前からふつふつと胸に秘めていた専門学校に行くという目的のために両親を説得し、自由への切符を勝ち取りました。「思考停止することだけは嫌だ」と言って、よく似合う赤い着物を身にまとい、新宿の喫茶店で煙草を吸う彼女に、お話をお聞きしました。

 

 

——まず、ひなこさんの1年目の就活がどういう感じだったかを教えてください。

もうほとんど記憶に残っていないのですが、すごく、形骸的な就職活動をしていたと思います。

 

私は、大学でフリーペーパー制作サークルのデザイン統括という責任が重いポジションだったので、大学3年は夏インターンにも行かずにサークルで仕事に打ち込んでいました。大学3年の1月ごろから、とりあえず1dayの冬インターンに行きはじめました。OB訪問とかはやらなくて、20~30社くらいESを出したかなあ……。

 

あんまりやる気がなくて。そもそも就活を始める前の段階でデザイナー職にすごい興味があったので、学歴不問のデザイン職にも幾つか応募してみたんです。でも、結果は惨敗……。

それで、「デザインの勉強に興味があるから専門学校に行きたい」って話を親に相談してみたら「そんなのになれるわけないだろう」「ありえない」って感じでバサっと切られて、その話は消滅しました。

将来的にデザイナーになりたいって気持ちが強かったから、一般企業に入るとしても活かせる職がいいと思って、広告代理店とか、人材系とか、いわゆる無形商材を扱う会社を受けていました。

 

——そういえば、私(聞き手)はひなこさんと直接の知り合いなんですけど、就活をはじめるタイミングで「営業とかの職について、デザインは趣味でやる」と遠い目をして言っていましたよね……。なんかあの目が印象的でした。

そのときは、自分に言い聞かせていたんですよ。

本当はデザインは趣味じゃなくて、社会に近いところでやりたいと思っていたんですけど、許されないと思っていたんです。

 

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——就職活動自体はどうでしたか。フリーペーパーのデザインもできるし、責任感もあるし、就活も得意そうに見えるのですが……

肝が据わってるとよく言われるので、グループディスカッションや面接で自分を出すのが得意でした。それ自体は問題なかったんです。

 

ただし、私、7割が最終面接で落ちるんですよ。思い出深いのが、とある会社の最終面接で偉いおじさま方に圧迫面接されたんですね。「今までの選考で出会ってきた、誠実で先進的な社員たちはなんだったんだ~」って思うくらい、重箱の隅をつつくような質問を連発されて。 それで、

「あ、私、おじさんが嫌いだった」って思い出したんですよ。嫌いなのに媚び売って就職するわけにはいかねえぞって(笑)

 

——でも、1社内定はでたんですよね

そうですね。ファンキーなおじさん社長だったので、人として好きになれたんです。ただ、その会社は、両親からNGが出てしまいました。親は、私がちゃんと就職活動をしないで、さらっと中小企業に入るのが気に入らなかったみたいです。

私にとっては、結構苦しんで勝ち取った内定だったので、否定されて落ち込んでしまって……。そこから、一本緊張の糸みたいなものが外れてしまって、寝込んでいました。

 

——寝込む!?

本読んだりスマホいじったり、一日中布団から出ない生活を送っていました。鬱々とした日々でしたね……。実際、自殺未遂みたいなことも何回かありました。その生活が大学4年の6月末から7ヶ月間続きました。

そのときに、デザイン系の専門学校の資料請求をしたんです。学校パンフレットを見ながら「資金を貯めて、勝手に学校にいってやろう」って計画を夢想していましたね。そうすることでしか、自我が保てなかったので。

 

——そのあと、どういう風に決めたんですか?

いよいよ2月くらいになって、卒業ももうすぐだし「どうするの?」ってなったとき、ちゃんと親とぶつかって専門学校に行きたいという話をしました。

 

結果として、親とは「専門学校に行く代わりに、大学は卒業しないでダブルスクール扱いにする」という妥協点で和解しました。保留してもらっていた内定は、寝込みはじめたころに辞退していました。

 

——すごい決断ですね。

ちょっと面白い話になるんですけど、私と親の関係って、鎖に繋がれている大型犬ってイメージだったんですよ。小屋からどれくらい離れたら、鎖がピーンってなって止められるか、その距離感を測って生きていたんですね。

だから、この「就職しないで専門学校に行きたい」って言った瞬間、初めて鎖がピーンってなった気がしたんです。バトルは大変でした(笑)

 

***

 

——専門学校の選び方を教えてください。

選び方は、第一に学費です。昼はバイトして夜間に通おうと思っていたので、大分絞られました。

行くことに決めた学校は、直感です。大学の先生におすすめの学校をピックアップしてもらったんですが、その3校の中で一番目立っていない学校があって。ネットの「おすすめの専門学校ランキング!」とかにランクインしないようなところで、無性に気になったんですね。

有名な専門学校は「就職に有利」って文句がつくんですよ。そうすると、「この学校に入ったら安全でしょ」みたいな人が集まってくるんじゃないかなって思って。そういう人とは反りが合わないので、あえて「じゃないほう」の学校に決めました。

しかも、ちょうど鬱々とした期間だったので、体力もなくて学校見学に行った一校目で決めちゃったんです。ほんと、直感でした(笑)

 

——そうして決めた専門学校は、どうでしたか?

めっちゃ楽しかったです。

なんか、人生の行き先を手探りしてる大人がいっぱいいたんですよ。公務員やってたけど自分の好きなことやりたいとか、デザイン系の会社員だけど何もわからないからスキルアップしたい! とか。大学ではお会いすることがない人をたくさん見て、結構人生って自由なんだなって思いました。

 

単純に技術の面でも進歩しましたね。学校は週4の授業で、座学3割:製作7割でした。使えるソフトも増えたし、作業スピードもアップしました。

切磋琢磨する同級生がいることも大きかったです。サークルでデザインをやってたときは遊びの延長でしたし、専門学校の同級生たちと同じ目線でものをみて、デザインについてあーだこーだ言い合えたのは嬉しかったです。

 

——1年間の専門学校生活なのに、すごい広がりましたね。

はい。引っ込み思案な自分を変えたくて意識的に行動したら、学校の授業以外でもいろんな経験をさせてもらいましたね。

 

——ひなこさんの行動力がすごいです。

私は、良い子ちゃんぶりすぎたんですよ。今まで、自分を十分に殺しきったから、我慢の限界だと思ったんです。 

本当は自由人の星のもとに生まれてきたのに、自分のことを「小心者で臆病な優等生」だと思い込んでいたみたいなんです。

空気を読みすぎて苦しくなっていたので、いまは公共の福祉にのみ気を配る程度でいいや〜って変わりました。

 

——その思いはいつごろから始まったんですか。

2011年に「日常って簡単に変わるな」って思ったから、我慢して楽しそうに繕うより、とにかく好きなことをして生きたかったんです。

 

***

 

——今後はどうするんですか

いま就活中です。ポートフォリオを作って送る感じの就活をしています。

 

——ポートフォリオとは、なんでしょうか……。

作品集のことです。自分が作った作品の画像と制作期間やサイズとかの情報と、その意図を書いて、製本して提出するんですよ。

例えば、私がデザインした『ADHDワセジョのそれでもどっこい生きてる!』というZINEだとすると、デザインをする前に執筆者の企画意図を聞き取りました。この場合「幅広く生きづらいと思っている女の子に届けたい」「当事者の人たちに届けたい」という背景があったので「ターゲットのカルチャー層に刺さる色はどんなだろう」とかを調べて、そこに合ったデザインに落とし込んだんです。そういう過程と結果を幾つか並べるんです。

 

 

——ひなこさんにとっては2回目の就職活動ですね。

普通の就活と違うのは、年間通じて採用がある業界だから競争意識が煽られなくて良いですよ。「周りがはじめたから私もやらなきゃ」って嫌じゃないですか(笑)

もし、いま、デザインと無関係の就職をすることになったとしても、めげずにやっていきたいと思っています。

 

——「デザイン」という好きなものがみつかったのすごいですよね。

高校の時は好きなものがなかったんです。自称進学校にいたので、高校2年の秋からガリ勉でした。確かに、勉強は楽しかったんですが、高校3年になったあたりからオタク趣味を封印するなど、大学受験で心を殺しすぎたなって思います。

だから、満を持して大学に入学した瞬間、好きをちゃんと保って入学してきてる同級生をみて「わたし、なんもない!」って焦りました。

そこからなんとかしてわたしの好きを見つけようと思ったので、デザインを好きになったのも、単なる思い込みだったのかもしれません。でも、思い込みでもいいんです、幸せな思い込みだと思うので。

 

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(赤い着物に黒レースの羽織、ゴツめの指輪にシュッとしたボブヘア!愛読書の「銀河鉄道の夜」は、自己犠牲のお話で今日のインタビューともぴったりでした)

 

——今日のお着物が大変お似合いですが……それも ?

これ……語ってもいいんですか?(笑)

着物を着ているときって注目されすぎて、逆に周りの目が気にならなくなるんですよ。例えば今日着ているのも真っ赤で、洋服だったら派手すぎるかなって思うかもしれないんですが、着物は形がシンプルだからいけるんですよ。

「自分は太っているかもしれない……」っていう体型コンプレックスも着物は消してくれるんです。

周りの空気読まなくていい服装で、一番自分らしく居られる服です。戦闘服ですコレは。

 

——意識高いサイトみたいで恐縮ですが(笑)、悩んでいる就活生にひとこと、なにかありましたら言ってください。

生きて。今つらくても。としか言えません。

私は、就活で苦しんでいる人はたいてい、思考停止ができない人なんだと思うんです。でもそれって手放しちゃいけないものだと思います。だから、無理やり就活に染まるよりも、一回振り切って落としどころを探してみてもいいんじゃないかって思います。

 

——せっかく早稲田までいったのに、みたいな葛藤がある人もいるんだと思うんですよね。

うるせえ、で一蹴しましょう(笑)

早稲田に行ったのは自由意志じゃないですか。高学歴のいいところは、ひとよりもたくさんの選択肢を持っていて、総合的な力を持っているところだから、なにをやってもいいと思います。私の場合でも、大学とデザイン学校の両方の経験をしたから、社会に還元できることがあると思うんですよね。

 

そもそも、新卒一括採用なんて某企業の思惑じゃないですか。チョコレート会社の思惑のバレンタインは参加しないでもいいのに、新卒一括採用はマストで参加しないといけないなんて踊らされてるよって思いますね。海外のギャップイヤーみたいな形で社会に出るのは、本当にいい制度だと思います。